書を捨てに町に出よう 

とうじ魔 とうじ 特殊音楽家

僕は本が大好きなので、本屋にはほぼ毎日のように足を運ぶ。一日に何軒もの本屋さんを覗く事だってしょっちゅうだ。当然、古本屋さんにも行く。新刊書店ほどではないが、たまに行く。捜している本がないかと棚を見る。そして目当ての本がないとわかると店を出る。つまり僕にとって古本屋とは本を捜す所(すなわち買う所)であって、本を売った事はまだない。

我が家で置き場に困る邪魔な物、それは本だ。本は毎月増える。どんどん増える。片づけても片づけても増殖し、我が家を占拠して行く。ただでさえ狭い家が益々狭くなる。仕方ないので事務所を借りた。だがすぐに事務所の本棚も満席になってしまった。今度はいらない本を実家に持っていった。そしたら実家のお袋に怒られた。「いらないなら捨てちゃって!」でも本をゴミとして出しちゃうなんて僕にはできない。「捨てる位なら、そのうち古本屋に持ってくから」そう言って母親を説得し、そのうち、そのうち、と言い続けて数年が経った。実家に帰るたび「あー、邪魔だ」と未だに文句を言われている。そー言われてもなかなか踏ん切りがつかないんだよね。売りに行く腰が重い。

大阪のクライン文庫の古川さんから、この原稿の依頼を受けた。そうだ、これを期に本を売りに行こう。それで、その事を原稿に書けば一挙両得じゃないか! ようやく踏ん切りがついた。書を捨てに町に出よう!!

〔11月15日〕初めて本を売りに行く。まずは初心者でも入りやすそうな大型店へ。別に高く売れる必要はないのだ。どうせ、もう読まないんだし、もらった本が殆どなんだから。手始めに「古本館」に西岸良平の『夕焼けの詩』1巻~29巻をまとめて持ってゆく。少し雨が降ってきたのでバッグに詰めて自転車で運ぶ。重たい。若いバイト風の定員が「買い取りの担当は4時にならないと来ないので、お預りになりますが宣しいですか?」と言うのでバッグでと預ける。買取申込書に名前と住所、電話番号を書く。これが引替え券になるとのこと。5時にもう一度行くと、もう用意ができていて「2千円でいいですか?」と開かれ了解する。持参した買取申込書に更に年齢、職業、金額、サインを書き込み2千円とバッグを受け取る。2千円が高いのか安いのか、さっぱりわからない。

〔11月16日〕「ブック・オフ」に本25冊を持って行く。ひさうちみちおの単行本が14冊と、あとは武田真弓の『ファイト!』など最近の売れ筋や洋泉社の映画や音楽の本など。茶髪の若い女の子が値付け係だったのは意外。「10分程店内をご覧になってお待ち下さい」と言われ、結局売れたのは11冊でたったの840円。ひさうちみちおは『パースペクティブキッド』と『夢の贈物』を除き、あとの12冊は値がつかないと返される。会員カードを作ると本を売る時、サービス券がもらえると言うので、言われるままに作ると百円取られ、差し引き740円受け取る。サービス券は50円の金券なので、もうここに本を売りに来ることもなさそうだし、シマッタと悔む。

〔11月17日〕我が家で何と言ってもかさばっているのは『ガロ』だ。『ガロ』を処分すればグンと家が空くのだが、僕はずっと『ガロ』に執筆していたので一方ならぬ愛着がある。そこで自分の原稿が載っていない物を50冊程処分する事に。一番古い物は76年8月号、新しい物は98年9月号と飛び飛びの50冊。「田園書庫」に引き取ってもらえるか確認してから売りに行く。店主は石橋蓮司をもうちょっと男前にしたようなシブイ中年。50冊もの本を次々に見てゆく手つきが、いかにもプロらしくカッコいい。そして一冊、丸尾末広の特集号だけをよけた。「丸尾さんは人気があるから値がはるんだな」と内心ほくそ笑んだ。鑑定が終わった。店主は丸尾末広特集を手に「これだけは…」(この後、高いという言葉が出ると思い固唾を飲む)「破り取りがあるので引き取れません」ガクッ、としながらも、50冊の中から一箇所の破り取りを見抜くプロの技に感服。しめて3千5百円也。夜、ひさうちみちおの「ブック・オフ」で売れなかった12冊に他の本を加えて計25冊を持って、もう一度行くと2千5百円で売れた。

〔11月20日〕アラーキーの初期の写真集を4冊持って「九曜書房」に行く。『わが愛、陽子』『東京エレジー』『劇写・女優たち』 いずれも状態は悪いが初版のサイン本。あとの一冊は限定千部の『続センチメンタルな旅・沖縄』発行は荒木経惟本人。店員の若い男に「今日は値付けする者がいないので、お預りして明日になりますが」と言われ預けてくる。夕方、帰宅すると、「九曜書房」から留守番電話が入ってる。「お値段ついてます。今日はお金がないので明日以降にお越し下さい。できれば連絡してからご来店下さい」連絡してからったって、電話番号なんで知らねーよ。それにしても「今日はお金がないので」という所が気にかかる。数千円の金ならいつだってあるだろう。1万や2万だって、ないはずはない。これは結構大金かも?とドキドキするが、ぬか喜びはしない事にした。

〔11月21日〕昼過ぎ「九曜書房」に。8万2千円で売れた。金額を開いた時はコーフンした。空腹が吹っ飛んだ。冷静を装って店を出る。だが人間の欲と恐ろしいもので、時間が経つにつれ、もっと高く売れたのでは?と思うようになるのだから手に負えない。

この原稿の依頼を受けた時、古川さんに「お忙しい時にすいません」と言われたけど、いえいえ、とんでもございません。おかげ様で思わぬ収入があった上、家が片づきました。めでたし、めでたしでございます。

とうじ魔 とうじ

1958年東京生まれ。特殊音楽家。本名、塔島和郎。”目で見る音”をコンセプトに、楽器以外の日用品を使い独自のサウンド・パフォーマンスを行う傍ら、コラムの執筆、テレビ出演、講演会、他幅広く活動する”半芸術家”。パフォーマンス集団「文殊の知恵熱」のメンバー。著書「とうじ魔とうじ養成ギプス」(洋泉社)、「半芸術」(青林工藝社)。共編著にCDブック「阿呆船」、「邪宗門」(共にブルース・インターアクションズ)等がある。

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