天牛書店 ハワイに進出する

天牛 高志 天牛書店

昨年の8月、大阪の天牛書店(本店:江坂)が、ハワイ・ホノルルに新しいお店をオープンしました。そこで、大阪古書組合広報部(クライン文庫)が天牛書店店主・天牛高志さんにお話を伺ってきました。不況の嵐の吹きまくる日本を離れて、常夏の島ハワイヘ取材と行きたいところですが、予算の関係で江坂のお店でのインタビューです。暫しの間、お楽しみ下さい。

gp99a1

Q.「ハワイにお店を出そうと、思ったのは、いつ頃ですか。

A.97年の5月頃です。

Q.そのいささつを少しお願いします。

A.まあ、ハワイに出そうと思つたきっかけは、ある人物との出会いです。その人は、若い時、10年ほど前にロサンゼルスで商売をしていたんですが、事情があって、日本に帰って来られて割烹料理屋を任されてやっていた。その料理屋が、私が英語を習っている所の下にあって、懇意にしていたのですが、そこのオーナーが、お店を売ってアメリカに住むことになり、その人の働く場所がなくなった。話を聞くと、本人は、向こうの生活に慣れているし、グリーンカードも持っているので向こうで何かしたいということで、その時、今度の話が出たのです。

Q.その方がハワイ店の店長さんですか。

A.ええ、店長としてやってもらっています。

Q.お店の大ささはどれぐらいですか。

A.日本の坪数でいうと20坪強位です。

Q.扱っている本の種類はどんなものですか。

A.基本的に日本の普通の古本です。まあ、私のところが扱っている本です。

Q.対象にしている客層は、どのような方ですか。

A.地元に住んでいる日本の方と日本の大学の分校や現地の大学の日本文学科などを対象に考えています。特にハワイ大学の日本文学科の先生や生徒は一般的な日本人以上に日本に興味をもっていて、日本語も上手で、最近日本ではあまり売れなくなった、岩波古典文学のバラや、能・歌舞伎の本などを歓喜して買ってくれます。

Q.どれぐらいのペースでハワイには行かれる予定ですか。

A.3ヶ月に一度位で行きたいと考えています。

Q.本の値段に関して、日本とハワイでは差がありますか。

A.そうですね。一番ネックになるのは輸送費の問題です。月に100パイ、パッキンで送っているのですが、1箱につき三千円位輸送コストがかかります。文庫本だったら一箱に100冊位入るのですけれど、一冊100円の本を送ったとしても、一冊につき30円のコストがプラスされるわけです。だから、文庫本一冊を2ドルから2ドル50セントぐらいで売らないと合いません。

Q.向こうのお店は独立経営の形で、天牛さんから本を卸しているのですか。

A.そういう形をとっています。そうしないと色々と税法上問題がありまして、経営上は、現地で登記して、新しいビジネスとして、日本から輸入した本を売っているという形をとっています。

Q.8月にオープンするまでの準備期間に苦労したこととかありますか。

A.まず、場所の設定に苦労しました。最初2から3回下見に行ったのですが、日本と何となく発想が違ってピントがずれていて、的を絞るのに困りました。日本でも有名なアラモアナ・ショッピング・センターとかワールドセンターとかは確かにいいのですが、かなりコスト的に高くつきますし、こちらの狙いとしての顧客に観光客はまったく意識にありませんでした。いわゆるローカル、地元の生活者相手の販売を目指しておりましたので、生活者に根付いたショッピングセンターを探すのに時間がかかりました。色々な場所を見たのですが、片寄りすぎた所とか色々で、結果的に今の場所に決めました。

Q.僕白身、ハワイに行ったことがないのですけれど、お店のある場所は、どんな場所でしょうか。

A.まずハワイというのは、大阪でいえば環状線が一周していますよね。そう言う道路があって、その内側が中心地でメインになるのですけれど、その中で、海岸から少し行った所に運河があって、その海岸から運河までが、だいたい観光客用の土地なのです。運河の上側が地元の人の行動範囲の所で、店はそこにあります。比較的中心地に近い、運河に近い所です。リピーター、ハワイに毎年来る人は、今回の場所をよく知っています。というのも、有名な中華料理屋さんや焼肉屋さんがあって、5回6回とハワイを経験している人は、必ずと言っていいぐらい来られる場所です。だから、ハワイをよく知っている日本人の団体さんとかがハワイに来たら必ず寄っていかれるみたいで、焼肉屋さんの帰りにお酒に酔って、喜んで買っていかれるみたいです。(笑)

Q.営業時間は。

A.午前11時から午後9時までで、一応年中無休です。

Q.感覚としては日本の古本屋と同じですか。

A.何を好き好んで向こうでやるという所もありますよね。はっきりいって、ビジネスとしてするのだったら、日本でやる方が、ずっと楽だしずっと儲かると思いますよ。

Q.それでもやるという所は。

A.私自身が、まず、日本だけでなくということが、ずっとありました。今回のハワイ店は、私が一番したいことにドンピシャリだったということです。今ここ江坂でやっているわけですが、日本で他に支店を開くということは毛頭考えていません。海外だから、面白いからやってみようと思ったわけです。だから、それが直接、今すぐに金儲けになるとは考えていません。はっきりいって、日本国内で古本屋をやっても、あらゆる事はやり尽くされている感じだし、今から新しい事を見つけるのも難しいですね。人と同じような事は、いくらでも出来るけれど個性的な事をするのはかなり難しいように思うのです。

Q.それでは、ハワイ店を開いたことで、今後の展開をどのように考えていますか。

A.まずは定着させることです。それから後は情報を集めるというのですか。何ヶ月かやっているとわかるのです。どういうものが要求されているのかが。それは、毎日、向こうとFAXで色々とやり取りしているので、だんだん見えて来てピントが合って来る感じです。日本で全然売れない本が意外と売れたり、売れると思った本が売れなかったりする。そういう情報を収集するひとつの時期だと考えています。それから具体的には、アメリカ本土にいる日本人の方にインターネットで発信していく。今、日本人向けのサイトに出したりしているのですけれど。

Q.将来的な展開としては、海外に住んでいる日本の方にインターネットを通じて本を売って行く。その現場的な情報収集をハワイでするといったようなものでしょうか。

A.ええ、まあそういうところですね。

Q.これが売れると思った本が売れなかった本とかは、どんな本ですか。

A.売れなかったというより、たとえば 「源氏物語」という本がありますね。日本ではあまり売れません。それが向こうでは送ったものは全て、それもポンポンと売れるといった具合で、日本文化に関するものは確かに売れる。また雑誌類でいえば、「コンバット」とか「GUN」とかは、日本では全然売れませんが向こうではすごく売れるとか。

ハワイ店店長 瀬川進・斗志香ご夫妻

Q.文庫本はどうですか。

A.文庫本とコミックは着実に売れています。

Q.海外では日本のアニメとかマンガがブームであるとよく聞きますが。

A.そういう言葉によく皆んな騙されるわけで、確かにそういう声が大さいから錯覚してしまうわけですが、現実には、少数の人が大きい声を出しているだけかもしれません。実際に、地元に根付いた人にどれだけの需要があるのかが問題で、また、そのような人がいたとしても出会うのは非常に難しいかと思えます。現実に普通の人が、どういうものをどれぐらい欲しがっているのかが大切で、ブームとかで底の浅い需要であるのに、大さな声に錯覚して、飛びついてやったりすると意外と売れないとかがあるみたいです。確かに、そういうブームはあるようですし、だんだん、そういう風になっていくみたいですけれどもね。

Q.「まんだらけ」が海外進出しているようですけれども、意識しますか。

A.全然、意識していません。

Q.それでは、ハワイ店を開店してみて、嬉しかった事というか、喜びのようなものはどんな事でしょうか。

A.そうですね。今、日本で古本屋をやっていても、こちらが思っているほど需要がなくなっている感じで、うちなんかは、あまりマニアックじゃなく一般書の良書を扱っているつもりなんですけどもね。それは、ある意味では、本が過剰になりすぎて、新刊屋が多く出来て、飽和状態にあるということだと思うのです。それが向こうでは、単純な本に関しても非常に喜んでくれるんです。本当に探していたけれどなかなか見つからなかったとか。ハワイでは、日本の新刊屋は目立つ所では2軒しかなく、日本では三千円程の辞書が50ドル、日本円でいえば六千円位するわけです。それがうちだったら20ドル位で手に入る。そういう事に村して、お客さんが本当に感謝してくれる。古本屋にとって一番原点の喜びを味わえるのです。それと何といっても一番大きな喜びは、現在、日米間ではいろんなキシミみたいなものがありますが、日本を心から愛している意外な程多くのアメリカ人が、日本を理解するために、日本に関する本を買ってくれることです。やって良かったと素直に思えます。

Q.ハワイでは、天牛書店以外に古本屋はあるのですか。

A.私どもに先立って、98年5月にブックオフが出来ました。それ以前には本格的な所はなく、新刊本の卸屋みたいな所があったぐらいです。

Q.ハワイにブックオフも進出しているのですか。

A.ええ。5月にアラモアナ・ショッピング・センターという一等地に出来ました。そこにある日本の白木屋という百貨店の中の仏壇売揚が撤退して…。

Q.仏壇売揚ですか。

A.ええ、仏壇売場です(笑)。そこに出来たのです。店の方もかなりひろくて40坪位あって、お客さんもすごく集まる場所で、ちょっと圧倒されるところがあるのですけれど、商品構成がコミックとか文庫が中心で、品揃えでは決して負けない自信があります。どちらかというと「負けてたまるか」という感じですね (笑)。

Q.今度はいつハワイに行かれる予定ですか。

A.11月(98年)の初め頃です。

Q.ハワイ店とは常にFAXで連絡を取り合って、その情報を元に、月に一度100パイ位、送本しているわけですね。

A.ええ、月に100パイ位です。毎日3から4箱位作っているんです。これがけっこう時間がかかるのですね。向こうでやってくれる人は本は大好きなのですが、まだ古本屋には慣れていないので、こちらで半分近くは値段を付けて送っています。まあ、 徐々に慣れていくと思いますけれど。また、本の新着案内とかも毎月一回作ってチラシとして配ったり、地元の新聞に月一回広告を出したりして、犬の本の特集とか、英語を勉強する人の為に本を紹介したりとか、けっこう忙しいのです。でも、それが何というか楽しいのです。商売を原点に戻って純粋な部分から始めるというか。日本だったら、新しい店をするといっても、もうある部分が出来上がってしまっているという所があって、しかしハワイだったら 「天牛書店」といっても誰も知らないわけだし、「いったい何やこれ」って感じで、ゼロからする面白さがあります。人から見たらアホみたいな感じかもしれませんけどね(笑)。

Q.仕入れとかもハワイでしているのですか。

A.ボチポチ買ってくれないかと来ているのですけど、当分の間はやらないでおこうと思っています。向こうの人は本を売る習慣がないので、売ることを想定して読んでいないので状態が悪い。向こうの日本人向けのビデオ屋さんも古本を少し扱っているのですが、そこに集まってくるものといったら、どうしようもないクズばかりで、はっきりいってゴミの山です。うちもやればそうなるでしょうから、しばらくは様子をみようと思っています。

Q.いろいろお話を伺って来たのですけれど、僕の感じた所では、日本ではあまり感じなくなった古本屋の原点のようなものがハワイにはあって、そこに非常に純な部分の古本屋の喜びを感じておられる。それがとても楽しい事である。そして、それをしっかりと地元に根付いた形で展開したいというところでしょうか。

A.ええ、まあそういうことですかね。向こうでやってくれている店長も気がいいというか、人との付き合いも上手で、お客さんも次から次と紹介してくれているみたいで、人の輪みたいなのが、だんだんと広がっていく感じです。

Q.それはとてもいい感じですね。がんばって下さい。

A.ええ、今、なかなか大変だけど、がんばります。

(昨年10月の江坂天牛書店におけるインタビューを元に構成編集致しました。文責・クライン文庫)

ページの先頭へ